2020年7月10日より法務局にて遺言書を保管してくれる『自筆証書遺言の保管制度』が始まりました。
自筆証書遺言の保管制度が始まった趣旨については、様々なことが考えられます。
自筆証書遺言の最大のデメリットであった遺言書の紛失、相続人による書き換え、隠匿、廃棄などのデメリットを回避できる点にあると思います。
これで遺言が普及するのかどうかを制度の中身を見ながら考えていきたいと思います。
◆遺言の作成方法を決める
今回の自筆証書遺言の保管制度は、今まであった自筆証書遺言と公正証書遺言の中間に位置する制度だと思われます。
自筆証書遺言を自宅等で保管するのは、費用もかからず、手軽に遺言を書くことができるというメリットの反面、冒頭あげさせていただいたようなリスクを伴うというデメリットがございます。
一方、公正証書遺言に関しては、公証人により遺言の有効性や紛失などのリスクを担保できるというメリットの反面、自筆証書遺言に比べるとコストがかかるというデメリットがございます。
今回始まった自筆証書遺言に関しては、比較的コストが安く、また、遺言の様式に関しては、法務局にてチェックしてもらえます。ただし、遺言の内容についての確認はありませんので、その点注意が必要です。
法務局にて保管をしてくれるため、相続人による改ざん、隠匿、廃棄などのリスクはなくなります。
これら3方式のメリット、デメリットを考慮して、まずはどの方法で遺言を書くのかを決めるところからがスタートになります。
(自筆証書遺言の様式例『法務省のHPより引用』)
◆自筆証書遺言の保管申請
自筆証書遺言の保管制度を利用するとした場合には、遺言を法務省令で定める様式に従って書いていきます。
遺言を書き終えたら、遺言を保管してもらう法務局を決めます。
どこの法務局でもよいというわけではなく、
・遺言者の住所地にある法務局
・遺言者の本籍地にある法務局
・遺言者が所有する不動産の所在地にある法務局
から選びます。
こちらは、事前に法務省のホームページから調べるか、電話で確認をしておいた方が確実です。
その後、保管申請書を法務省のホームページからダウンロードをして、必要事項を記入し、法務局に保管申請の予約をとることになります。予約なしでの保管申請の受付には応じていないため、注意が必要です。
予約当日、遺言書と申請書、その他必要書類をそろえて遺言書を保管をしてもらうという流れです。申請の際の手数料は3,900円とお手頃な価格だと思います。
ただし、代理人による保管申請は認められておらず、必ず遺言者本人が出向かなければなりません。
公正証書遺言であれば、公証人が自宅や病院、介護施設まで出張をしてくれますが、自筆証書遺言の保管制度にはそのような制度はありません。
これまでお読みいただいてお感じになっている方も多いと思いますが、これらの作業を70代や80代のご高齢者の方がおひとりでできるのか、非常に難しい作業なのではないかと思います。
我々のような専門家がサポートをして差し上げる必要があるのではないかと思います。
(遺言の保管申請書等『法務省HPより抜粋』)
◆保管期間中の遺言の閲覧、変更、撤回について
無事に遺言を保管することができたのちに、遺言の内容を確認し閲覧をしたいという場合ですが、遺言者が存命中は、遺言者本人以外は閲覧することができません。
また閲覧をする際に、1,400円もしくは1,700円の手数料が掛かりますので注意が必要です。
遺言書のコピーをとっておけば、いつでも見返すことができますので、コピーをしておいた方がよろしいのではないかと思われます。
遺言の保管期間中に遺言の内容について変更や撤回もすることができます。
ただし、その都度申請書を提出しなければなりません。
また、撤回に関しては、『保管の撤回』をするというだけで、遺言自体を撤回するということではありません。
保管の撤回をすると法務局に保管してあった遺言書の原本を返還してもらうことができますが、その遺言書をそのまま自宅に保管をしていた場合には、その遺言自体は有効なものですので、遺言自体を撤回したものではありませんので、この点は注意が必要です。
遺言自体を撤回するには、返還してもらった遺言書を破棄しなければなりません。
◆相続発生後の手続き
遺言者が亡くなった際には、相続人等が、遺言書が法務局に保管されているかどうかを調べることができます。
ただ単に遺言書が保管されているかどうかだけを調べる場合には、『遺言書保管事実証明書』の請求をします。
こちらは遺言書の内容の確認まではできず、ただ単に遺言書が保管されているかどうかという事実のみを調べるためのものです。この場合請求した相続人以外の相続人には、この請求が他の相続人から請求があった旨の通知はされません。
遺言書の内容まで確認をしたいという場合には、相続人等が『遺言書情報証明書』の請求を行います。この際には、請求をした相続人以外の他の相続人に、この請求が他の相続人からあった旨の通知がされます。
また、遺言者が遺言の保管申請時に『死亡時の通知の届け出』をしていた場合には、遺言者の死亡届が役場に届けられた際に、相続人や遺言執行者などのいずれか1人にのみ、自筆証書遺言が法務局に保管されていることが通知をされるようになっています。
更に、今までの自筆証書遺言の場合には、封がしてある自筆証書遺言が見つかった場合には、家庭裁判所に相続人全員が集まって、その場で遺言を開封する『検認』という作業が必要でしたが、自筆証書遺言の保管制度を利用した場合には、この『検認』が必要ありません。
◆ 自筆証書遺言の保管制度についてのまとめ
自筆証書遺言の保管制度が始まって、遺言を書く方が増えるかもしれません。
公正証書遺言よりはハードルが低く、遺言の紛失、改ざん、隠匿などのリスクも軽減できます。
ただし、必要最低限相続人が相続財産の取り分を主張できる遺留分というものがあります。
財産の配分に偏りがある場合、これら遺留分を侵害しないような遺言を、一般の方が書くことができるのか疑問が残るところです。
ですから財産が多く、相続の配分に偏りがある場合には、専門家のサポートを受けながら、後々トラブルにならないように公正証書遺言で遺言を作成するのがベストだと私は思います。
自筆証書遺言の保管制度は、お子様のいないご夫婦には最適な制度ではないかと思います。
お子様がいない夫婦のどちらかおひとりが亡くなった場合、その配偶者と亡くなった方の兄弟姉妹が相続人になります。
ですから、遺言書がなかった場合には、配偶者と亡くなった方の兄弟姉妹とで、遺産分割の話し合いをしなければなりません。通常これらの方々は普段ほとんど面識がないというのが一般的ですので、これらの方々で遺産分割の話し合いをするというのは、かなり酷なお話です。
ですからお子様のいないご夫婦は、お互い自筆証書遺言の保管制度を利用することによって、『全財産を配偶者へ』と自筆証書遺言を書いて法務局に保管しておけば、配偶者の兄弟姉妹と遺産分割の話し合いをする必要がなくなります。
しかも兄弟姉妹には先ほどお話した遺留分がありませんので、『遺留分を侵害した』と請求をされる心配もありません。
自筆証書遺言では紛失や亡失、改ざん、隠匿などのリスクがあり、公正証書遺言では、コストがかかりすぎるので、遺言を書くことを躊躇していたお子様のいないご夫婦には、コスト面、安全面などからも、最適な遺言書作成の方式ではないかと思います。
以上、新しく始まった自筆証書遺言の保管制度について、上尾相続相談センターからご紹介をさせていただきました!
今日もありがとうございました。